AI導入を成功に導く「関係者の理解」とは? 現場・管理職・経営層それぞれの視点を整理する

AI導入を成功に導く「関係者の理解」とは? 現場・管理職・経営層それぞれの視点を整理する

(最終更新 )

AI導入では、同じ業務に関わる人でも、立場によって抱える課題や期待する成果が異なります。 前回の記事では、AI導入における課題の明確化と関係者の把握について紹介しました。 本記事では、**関係者それぞれの視点を理解する重要性**を掘り下げ、具体的な事例を交えながら、ヒアリングから課題整理、次の検証へとつなげる方法を解説します。

前回の記事 AI導入の前に見極めたい、ビジネス成果につながる「本当の機会」で学んだように”関係者の把握”の重要性について学びましたが、本稿ではこれについて少し深掘りします。法人でのAI導入で成果を出すために避けて通れない重要なポイントだと私たちは考えています。

関係者それぞれの視点を理解する

業務フローについて議論する際、それぞれのステークホルダー(関係者)が重視する成果や関心事項が異なることを意識することが重要です。同じ問題について話し合っていても、役割や責任に応じて捉え方が異なります。


例えば、文書レビュー業務のワークフローでは、複数の関係者がそれぞれ異なる関心や課題を持っています。各立場からの期待やニーズを把握することは、プロセス改善やプロジェクト成功の鍵となります。

主な関係者ごとの関心ポイント

関係者

主な関心事・ニーズ

レビューアー

  • 手作業の負担を減らしたい

  • 専門性や判断力が求められる作業に集中したい

マネージャー

  • 業務の一貫性・生産性・見える化

  • 業務の停滞箇所やチームのパフォーマンス把握

  • サービスレベルの達成把握

部門長(ビジネスリーダー)

  • ターンアラウンドタイムの短縮

  • オペレーションリスクの低減

  • 顧客満足・成果の向上

  • 組織のスケール拡大能力

IT・セキュリティ・法務・コンプライアンス部門

  • データアクセス管理・ガバナンス

  • 承認フローやポリシー準拠

  • 監査・法令順守

利害関係者の違いがもたらす価値

関係者ごとの異なる視点は、プロジェクトの成功定義や重要な論点を明確にし、新たな発見につながる貴重な情報源です。

ステークホルダー(関係者)探索における主な観点

  • 業務運用上の課題や日常の悩み

  • ビジネス上の優先事項・望ましい成果

  • 導入時の考慮点やチェンジマネジメントのニーズ

  • 将来的に重要となるガバナンス・セキュリティ・法務・承認要件

  • 進捗や成功を判断する基準・指標

こうした複数の観点を重視し関係者の声を丁寧に探索することで、プロジェクトの着実な前進と、将来的な価値の最大化が可能になります。

具体例:営業部門における見積作成業務の効率化

ある製造業の企業が、営業担当者によって見積書の作成手順や内容にばらつきがあるという課題を抱えています。

当初、議論の中心になっていたのは、日々見積書を作成している営業担当者でした。

AI導入を支援するパートナー企業は、次のように質問します。

「見積作成の手順や内容が統一されていないことで、最も影響を受けているのは誰でしょうか?」

顧客企業の担当者は、次のように説明します。

営業担当者は、過去の見積履歴や仕入価格、取引条件を確認するために多くの時間を費やしています。しかし、この問題の影響は営業担当者だけにとどまりません。

営業課長は、担当者ごとに見積価格や値引き判断が異なることを問題視しています。一方、営業部長は、見積の回答スピードや受注率、案件ごとの利益率を重視しています。

パートナー企業は、さらに質問します。

「それぞれの立場で、どのような状態になれば改善できたと判断できますか?」

顧客企業の担当者は、次のように説明します。

  • 営業担当者: 過去の見積や価格情報を探す時間を減らし、顧客対応に集中したい。

  • 営業課長: 見積作成の手順や価格判断の基準を統一し、担当者によるばらつきを減らしたい。

  • 営業部長: 見積回答を迅速化し、受注率や利益率を改善したい。

パートナー企業は、こう整理します。

「同じ見積作成業務に関わっていても、営業担当者は作業負担の軽減、営業課長は業務の標準化、営業部長は売上や利益への貢献を期待しているということですね。」

顧客企業はこれに同意し、業務改善を推進する責任者として営業課長を指名しました。

営業課長は、AIを活用して過去の取引履歴や価格情報を参照し、見積作成に必要な情報を自動的に整理する仕組みを提案します。営業担当者がその内容を確認してから見積書を作成する運用を想定しています。

そこでパートナー企業は、さらに確認します。

「価格マスタや取引条件の更新は誰が担当しますか? AIが適切な情報を提示できなかった場合の対応や、担当者が異動した際の運用引き継ぎは、どなたが責任を持つのでしょうか?」

これらの責任分担は、まだ明確になっていません。

業務改善の責任者が決まったからといって、導入後の運用体制まで決まったわけではないのです。

このように、最初に相談してきた担当者の課題だけでなく、日々の業務に携わる人、改善の責任者、経営成果を重視する人、それぞれの視点を把握することで、AI導入の検討をより具体的に進められます。

この事例から学べること

AI導入の初期段階では、最初に課題を説明してくれた担当者の視点だけで判断しないことが重要です。

今回の事例では、次のような関係者と役割が明確になりました。

関係者

立場・役割

期待する成果

営業担当者

日々の課題を経験する人

見積作成時間の短縮

営業課長

業務改善の責任者

見積業務の標準化

営業部長

ビジネス成果の責任者

受注率・利益率の改善

営業事務・情報システム担当者など

運用を支える関係者

データの正確性や安定した運用

最後の営業事務や情報システム担当者については、実際の業務分担を確認する必要があります。

ポイント

同じ業務に関わっていても、立場によって課題の捉え方や期待する成果は異なります。

AI導入を検討する際には、誰が困っているのかだけでなく、誰が改善に責任を持ち、誰がビジネス成果を評価し、誰が導入後の運用を支えるのかまで把握することが重要です。

また、関係者の期待を整理できたとしても、それだけでAIの導入効果が証明されたわけではありません。実際の見積データを用いて、作業時間、価格判断の正確性、受注率などの改善可能性を検証することが、次のステップになります。

ヒアリング結果の整理と共有

関係者とのヒアリングで得られた情報は、整理して記録することが重要です。

優れたヒアリングのまとめは、その場に参加していなかった人でも、何が明らかになり、何がまだ不明確で、次に何をすべきかを短時間で理解できるものです。

会話の内容をすべて記録する必要はありません。重要なのは、そのビジネス機会にどのような根拠があり、具体的な検討を進められる段階にあるのかを判断できる情報を残すことです。

整理しておきたい6つの項目

項目

確認する内容

1. ビジネス上の課題と業務の問題点

顧客は何を解決したいのか。その問題は業務プロセスのどこで発生しているのか。

2. 関係者と改善責任者

誰が問題を経験し、誰が改善の結果に責任を持っているのか。

3. 想定されるAIの活用方法

どの業務やユースケースにAIを活用する価値がありそうか。

4. 顧客の関与と次のステップ

顧客は次に何をすることに合意しているのか。

5. 期待される効果の根拠

時間、コスト、品質、処理速度、リスク、顧客体験などに、どのような改善の可能性があるのか。

6. 導入に向けた準備状況や制約

社内承認、セキュリティ要件、その他の検証や導入に影響する条件はあるか。

この段階で詳細な費用対効果の試算や、正式な導入計画を完成させる必要はありません。

現時点で分かっていることと、今後検証すべきことを区別し、関係者が共通認識を持てる状態にすることが目的です。

ヒアリング結果をまとめるための記録例

実際のヒアリングでは、次のような項目を使って情報を整理するとよいでしょう。

記録項目

記録する内容

課題

具体的に何を解決しようとしているのか。

業務上の問題点

業務のどこで非効率や問題が発生しているのか。定期的に繰り返される業務であれば、作業の開始条件、参照可能な情報、実行できる操作、期待する結果、例外発生時の対応も確認する。

関係者と責任者

誰が問題に直面しているのか。誰が改善に責任を持ち、結果を確認するのか。データやシステムへのアクセスを管理するのは誰か。担当者が変わった場合は誰が引き継ぐのか。

改善効果の根拠

その問題がビジネスに影響していると判断できる情報は何か。作業時間、コスト、ミスの発生頻度など、現時点で把握できる数値や事実を記録する。

導入準備と運用上の条件

社内の検討状況、必要な承認、外部サービスとの接続権限、参照データの更新状況、結果の共有範囲などを確認する。必要に応じて、サービス利用料の負担者、利用予定の製品、契約条件、利用資格なども整理する。

次の検証ステップ

次に何を、誰が、どのような方法で確認するのか。合意した具体的なアクションを記録し、確認済みの事実と仮説を区別する。


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